世の中の男性諸君にぶつけたい1作『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

今回紹介する作品は谷口奈津子先生の『じゃあ、あんたが作ってみろよ』です。

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表紙からして奇抜というか、なんとも目を引くこの作品。

「美味しいよ でも、一品酸っぱいおかずが欲しかったかな?」って料理の作り手をブチギレさせるようなセリフを吐くのが、主人公の海老原勝男。

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そんな海老原が開始10ページ目で盛大にプロポーズを失敗するところから物語は展開します。

「この味、なんかちょっと違うんだよね」、「もっとちゃんとした出汁使えばいいのに」料理をしない人ほど、無邪気にそう言います。
この漫画は、そんな「一言」に真正面から立ち向かう。単なる料理漫画でもなければ、ただの説教漫画でもありません。
日常の何気ない切り口で”見えない努力”と”理不尽な要求”を、ユーモアとリアリティで鮮やかに描き切った、痛快な一冊です!


■筑前煮に見る、「理想」と「現実」

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印象的なのが、筑前煮を巡るエピソードです。彼女が作る筑前煮が好物だったが、彼女と別れた後、筑前煮を自分で作ることに挑戦する海老原。まさに「じゃああんたが作ってみろよ」とタイトル回収となるようなシーンです。

筑前煮──根菜を下ごしらえし、材料を順番に煮含め、味を調える。簡単に口にできる料理名の背後に、どれだけの工程があるのか。この一連のシーンを通して、海老原は偉そうなことを言ってしまっていたとを激しく後悔します。

料理の「正しさ」なんて、手間を知ってから語れ。読む者は自然と、食卓の向こうにある「作り手の世界」を想像せずにいられなくなり、日常のありがたみに改めて気付かされるようです。


■めんつゆと顆粒だしを、笑うな

物語の中で登場するのが、「めんつゆ」や「顆粒だし」です。これらを使った料理を見て、「手抜き」と評する海老原。

けれど谷口先生は、あっけらかんと描く。**「めんつゆだって作るのは大変だ!」「顆粒だしを開発した人の偉大さをわかってるか?」**と。

ただの笑い話ではなく、料理とは、素材からではなく、日々の現実からスタートするものだ。そんな力強いメッセージが、じわりと胸に沁みます。


■ただの説教じゃない、優しい眼差し

もちろんこの作品は、料理をしない人を断罪するだけの漫画ではありません。むしろ、**「知らなかったなら、今から知ればいい」**という、温かいスタンスを貫いている。

読後感は、痛快さと、少しだけの反省、そして不思議な高揚感。「よし、じゃあ今度は自分で作ってみようか」──そんな気持ちにさせてくれる。

谷口奈津子先生の『じゃああんたが作ってみろよ』は、料理の奥深さと、作る人へのリスペクトを、軽やかに、でも確かに教えてくれる。

しかし、注目すべきはそこだけに留まりません。現実の生きづらさ、しがらみからの解放、ありのままの自分を取り戻す などなど。訴えかけられるメッセージの量に圧倒させられますが、

何より、根拠の無いステレオタイプから変化していく様は爽快感を覚えます。

昨今の世の中の本質的な「息苦しさ、自由度の無さ」に対して提言になっているような作品だと感じます。日常に少し息苦しさを感じる全ての人に一読頂きたい名作となっています。


[1-3]谷口菜津子、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』、ぶんか社、comicタント

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まよまよ

新潟出身の漫画中毒めがね。コアでニッチな漫画が割と好き。猫と暮らす。

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