日本が世界に誇るサイバーパンク漫画3選+次の世代の新作漫画

テクノロジーが人間を超え、都市が無機質に広がる近未来。そんなディストピア的な世界を舞台に、人間とは何かを問う“サイバーパンク”というジャンルは、まさに現代の不安や未来への予感を映す鏡です。

今回はその中でも、日本発で世界中のクリエイターやSFファンに影響を与えた名作3選に加えて、サイバーパンクの超新星『ダイダラ』の魅力たっぷりにご紹介します


Highlights

  1. 『攻殻機動隊』
  2. 『AKIRA』
  3. 『BLAME !』
  4. 『ダイダラ』

1. 攻殻機動隊(士郎正宗)

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──「私は誰か?」と問い続ける、電脳時代の哲学書

● あらすじと世界観
西暦2030年代。人々の脳とネットワークが直接接続され、「義体(サイボーグ化)」が一般化した社会。そこではサイバー犯罪やテロが日常化しており、国家公安9課、通称「攻殻機動隊」がそれに対抗している。主人公は、全身義体の捜査官・草薙素子。彼女は自らの存在が「本当に人間か」「魂(ゴースト)はあるのか」と自問しながら、国家レベルの陰謀に立ち向かっていく。

● なぜ読むべきか?
本作は単なるハイテクアクションではなく、**「意識とは何か」「人間とAIの境界とは」**という哲学的テーマが貫かれています。
また、後にハリウッドで『マトリックス』を生むきっかけとなったビジュアル表現も圧巻。電脳ネットワーク、義体化、情報戦──今日のテクノロジー社会を先取りした驚異的ビジョンに目を見張ります。

● 読者への刺さりポイント

全身を機械の身体(義体)に置き換えても、人間は“人間”なのか?電脳(ネットと直結した脳)を通じて思考や記憶を他者と共有する世界で、**「自分とは何か」「魂(ゴースト)はどこにあるのか」**という問題が浮上します。これは、現代の私たちがSNSやAIと接しながら感じているアイデンティティの曖昧さや不安と直結しています。

主人公の草薙素子(少佐)も大きな魅力!義体化された身体を持つ女性捜査官の少佐は見た目はクールで無感情にも見えるが、彼女の内面は非常に複雑で、「自分にゴースト(魂)はあるのか」という哲学的葛藤を抱えています。彼女は“強さ”と“存在への不安”を同時に抱える存在であり、そのアンビバレントな人物造形が、非常に現代的で魅力的です。

哲学的な作品と思われがちですが、緊張感あるアクション・情報戦・戦術戦闘の描写は抜群。さらに、士郎先生の原作漫画や押井守監督のアニメ版では、未来的な都市景観や電脳空間の表現が圧倒的に美しく、まるでビジュアルアートのよう。“考えさせられる作品”でありながら、“観る快楽”もしっかり用意されています。


2. AKIRA(大友克洋)

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──暴力と覚醒の中で描かれる、ネオ東京の崩壊と再生

● あらすじと世界観
第三次世界大戦により崩壊した東京──その後に築かれた都市「ネオ東京」では、政府の圧政とストリートギャングが入り乱れる混沌が広がっていた。
バイクチームの少年・金田と、彼の親友・鉄雄。ある事故をきっかけに鉄雄が超能力に目覚め、国家レベルの機密「アキラ」を巡る争いに巻き込まれていく。やがて彼は圧倒的な力とともに暴走し、都市そのものを呑み込む存在へと変貌していく──。

● なぜ読むべきか?
『AKIRA』は、単なるSFではありません。少年たちの青春、社会への怒り、国家権力への反抗、そして力を持つことの孤独が複雑に絡み合った、圧倒的な人間ドラマです。
しかも全編を通じて緻密な背景と構図、ページから音が聞こえてくるような圧巻の作画。「読む」というより「体感する」漫画といっても過言ではありません。

● 読者への刺さりポイント

登場人物の鉄雄は、実験によって超能力に目覚めたことで、かつての仲間・金田や社会全体と乖離していきます。この変化は、単なる“超能力もの”ではなく、「抑圧された存在が力を得たとき、どこへ向かうのか」という問いを孕んだ暴力の寓話です。鉄雄の暴走は、社会の秩序を破壊し、やがて神の領域に達しようとしますが、そこには自己の崩壊と孤独が深く描かれています。この構図は、フロイト的な力の欲望とエディプス的反抗を想起させ、無意識の衝動と文明の衝突としても読み解けます。

『AKIRA』の最大の魅力の一つは、圧倒的な作画密度と空間構築力にあります。数千枚にも及ぶ背景、緻密に描かれた崩壊する都市、疾走するバイク、飛び散る瓦礫や肉体──すべてが「動いていないのに動いて見える」レベルのビジュアルです。漫画でありながら映画的な構図が貫かれており、1ページごとに読者の五感に訴えかける臨場感があります。特に建築や機械描写の緻密さは、建築・美術・映像に通じる読者にも強く訴える作品です。

『AKIRA』は単なる未来SFではありません。それは、暴力と破壊に惹かれながらも、世界と関わろうとする未成熟な人間の物語であり、そこには日本という国家の戦後意識や、現代文明の宿痾が色濃く投影されています。そして何より、『AKIRA』は読むたびに「今この社会はどうなっているか?」と問いかけてくる、時代の鏡のような作品です。

AKIRAの特集記事はこちらも是非お読みください


3. BLAME!(弐瓶勉)

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──セリフよりも構造が語る、無限に広がる電脳迷宮

● あらすじと世界観
遥か未来。人類はネットアクセス権を失い、制御不能の都市構造体が自動増殖し続ける世界。
主人公・霧亥(キリィ)は、ネットスフィアへ接続可能な「遺伝子を持つ人間」を探し、無限とも思える階層世界をさまよう。文明の痕跡、人型の機械生命体、容赦のない殺戮者たちが、無言で広がる“世界”を彩っていく──。

● なぜ読むべきか?
この作品の魅力は**「語られないこと」にあります**。セリフは極端に少なく、説明もほとんどない。しかし、その分建築的で巨大な空間構成が、世界観そのものを雄弁に語る
霧亥という無口な主人公の孤独な旅路は、まるでプレイヤー自身がゲーム世界を彷徨うような没入感をもたらします。

● 読者への刺さりポイント

セリフが極端に少ない分、登場人物たちの表情、仕草、沈黙の間合いがドラマを作ります。キリィと出会う人々(人間とは限らない)の関係性や別れが、台詞で語られずに描かれるからこそ、読者の中に余韻が残るのです。感情を説明しないことで、むしろ読者自身が感情を投影する空白が生まれる。この“余白の演出”が、大人の読者に強く響きます。

『BLAME!』の最大の特徴は、そのビジュアル。物語の舞台となる「メガストラクチャ(超巨大構造体)」は、宇宙のように拡張され続け、地球の大きさを遥かに超えています。そこを主人公・霧亥(キリィ)は、ひとりで黙々と歩き続けます。この構造体の描写は、建築、土木、都市論、空間哲学に通じる視覚芸術と言っても過言ではありません。壁、階層、橋、管、塔──それらが、意味も目的もわからないまま延々と連なり、無言で「存在とは何か」を突きつけてくる。

「目的地も地図もわからない。それでも前に進まねばならない」
──そんな不条理な生の感覚に共鳴する読者は、BLAME!の世界に深く浸れるはずです。

キリィは、感情をあまり見せず、ひたすら無言で行動します。目的は「ネット端末遺伝子を持つ人間」を探すこと。しかし、彼が何者なのか、なぜそうするのかは、詳しく語られません。それでも、彼が前に進む姿には、強い“意志”と“孤独な気高さ”が宿っている。まるでカフカの小説や、ベケットの戯曲のように、「意味なき世界を、それでも歩く存在」としての深みがあるのです。


4. サイバーパンクの超新星『ダイダラ』

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同級生の“友だち”欲しさに、過疎化が進んだ田舎からサイバー都市の高校へ転校してきた「大太郎」《だいたろう》は、量産型クローンの少女「ミケ」と出会う。
そんな中、“ヨーカイ”と呼ばれる未確認大型生物が学校に侵入する事件が発生し・・・!!︎
妖怪meetsクローン少女!!︎
新進気鋭の作家・髙橋碁飯が描く、サイバーパンク×妖怪SFアクション開幕──!

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締めの一言:サイバーパンクは今を予言する

いま、生成AIやバーチャル空間、監視社会といった“サイバーパンク的現実”が現実のものとなりつつあります。
そんな時代だからこそ、日本のサイバーパンク作品に込められた警鐘や問いかけは、私たちに強く響くのです。
まだ読んでいない方は、ぜひこの3作から手に取ってみてください。きっと、目の前の世界が少し違って見えてくるはずです。


[1]士郎正宗、攻殻機動隊、講談社、ヤングマガジンコミックス

[2]大友克洋、AKIRA、講談社、、ヤングマガジンコミックス

[3]弐瓶勉、BLAME!、講談社、アフタヌーンコミックス

[4]髙橋碁飯、ダイダラ、ヒーローズ、ヒーローズコミックス

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まよまよ

新潟出身の漫画中毒めがね。コアでニッチな漫画が割と好き。猫と暮らす。

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