令和に読むべき“江戸人情”の教科書 『神田ごくら町職人ばなし』が沁みる!
■ 忙しない時代に、ふと“間”をくれる漫画がある
日々、スマホとにらめっこして、時間に追われ、息をつく暇もない——そんな現代を生きる私たちにとって、江戸の職人たちの「不器用だけど真っ直ぐな生き方」は、まるで一服の渋茶のように、静かに沁みてきます。
『神田ごくら町職人ばなし』は、江戸は神田の片隅で懸命に生きる“職人衆”の姿を、そっと描いた連作短編集。
刀鍛冶、染物屋、左官──名もなき手仕事に、誇りと覚悟を宿して生きる男たち、女たち。大げさな言葉はありません。ただ、黙々と手を動かし、人を思い、心を繋ぐ。その姿が、なにより雄弁です。

■ 技に宿る、魂のようなもの
どの話にも共通しているのは、“手を抜かぬこと”の尊さ。誰かが見ていようと見ていまいと、納得いくまで仕上げる。自分の看板に恥じぬように。その潔さ、頑固さ、優しさの混じった「粋」に、何度も胸が熱くなる。

職人の仕事1つ1つに魂が込められているような表現が節々に感じられる本作。
■ 江戸という時代、人という景色
物語に出てくるのは、どこにでもいそうな町の人たちです。吠えるでもなく、泣きわめくでもなく、ただ自分の持ち場で淡々と生きている。けれど不思議なことに、その姿が実に美しい。無駄のない所作や、人との距離感の取り方に、“江戸”という時代の品格が滲んでいます。
丁寧な筆致で描かれる長屋の風景、道具の質感、職人たちの背中。どのコマからも、手間ひまを惜しまない漫画家・坂上暁仁先生の仕事ぶりが伝わってきます。
■ 令和の私たちに必要なのは、こういう“間”かもしれない
今、誰もが忙しくて、すぐに答えを欲しがって、立ち止まることが苦手です。けれどこの漫画を読むと、不思議と深く息を吸いたくなる。
「ゆっくりでいい」「ぶつかっても、また挨拶すればいい」そんなふうに、少しだけ肩の力が抜けるのです。
派手さはない。けれど、読み終える頃には、少しだけ世界が優しく見える。
『神田ごくら町職人ばなし』は、令和を生きる私たちにこそ必要な、静かな人情の教科書です。
[1-4]坂上暁仁、『神田ごくら町職人ばなし』、リイド社、トーチweb