令和に読むべき“江戸人情”の教科書 『神田ごくら町職人ばなし』が沁みる!

■ 忙しない時代に、ふと“間”をくれる漫画がある

 

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日々、スマホとにらめっこして、時間に追われ、息をつく暇もない——そんな現代を生きる私たちにとって、江戸の職人たちの「不器用だけど真っ直ぐな生き方」は、まるで一服の渋茶のように、静かに沁みてきます。

『神田ごくら町職人ばなし』は、江戸は神田の片隅で懸命に生きる“職人衆”の姿を、そっと描いた連作短編集。
刀鍛冶、染物屋、左官──名もなき手仕事に、誇りと覚悟を宿して生きる男たち、女たち。大げさな言葉はありません。ただ、黙々と手を動かし、人を思い、心を繋ぐ。その姿が、なにより雄弁です。

[1]

■ 技に宿る、魂のようなもの

どの話にも共通しているのは、“手を抜かぬこと”の尊さ。誰かが見ていようと見ていまいと、納得いくまで仕上げる。自分の看板に恥じぬように。その潔さ、頑固さ、優しさの混じった「粋」に、何度も胸が熱くなる。

[2]

職人の仕事1つ1つに魂が込められているような表現が節々に感じられる本作。

[3]
「金や仕事なんざどうだっていい」そのセリフに現れるように、ただ良いものを作るという気概のリアルさ。決してセリフが多いわけではない漫画だが、その目線や仕草など細かく描かれ、まるで職人の息遣いが伝わってくるような描写に溢れています。

[4]
粋とは、技のことでも、見た目のことでもない。相手のことを思って仕上げる、その心根のことなのだと、気づかされます。

■ 江戸という時代、人という景色

物語に出てくるのは、どこにでもいそうな町の人たちです。吠えるでもなく、泣きわめくでもなく、ただ自分の持ち場で淡々と生きている。けれど不思議なことに、その姿が実に美しい。無駄のない所作や、人との距離感の取り方に、“江戸”という時代の品格が滲んでいます。

丁寧な筆致で描かれる長屋の風景、道具の質感、職人たちの背中。どのコマからも、手間ひまを惜しまない漫画家・坂上暁仁先生の仕事ぶりが伝わってきます。

■ 令和の私たちに必要なのは、こういう“間”かもしれない

今、誰もが忙しくて、すぐに答えを欲しがって、立ち止まることが苦手です。けれどこの漫画を読むと、不思議と深く息を吸いたくなる。
「ゆっくりでいい」「ぶつかっても、また挨拶すればいい」そんなふうに、少しだけ肩の力が抜けるのです。

派手さはない。けれど、読み終える頃には、少しだけ世界が優しく見える。
『神田ごくら町職人ばなし』は、令和を生きる私たちにこそ必要な、静かな人情の教科書です。


[1-4]坂上暁仁、『神田ごくら町職人ばなし』、リイド社、トーチweb

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まよまよ

新潟出身の漫画中毒めがね。コアでニッチな漫画が割と好き。猫と暮らす。

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