“クジャクのダンス”の真実──漫画完結&ドラマ化で問い直される“冤罪”と“復讐”

クリスマスイブに起きた殺人事件。残されたのは、300万円と「真犯人は別にいる」という父の手紙だった──。

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浅見理都先生による漫画『クジャクのダンス、誰が見た?』が、2025年1月にTBSで連続ドラマ化。主演は広瀬すず。全10話で放送された本作は、ただの復讐劇や冤罪モノではありません。
“真実”とは何か。“贖い”とはどうあるべきか。“裁かれるべき人間”とは誰なのか。
視聴者・読者に二重の問いを突きつけるこの作品の魅力を、原作・ドラマの両面から改めて紐解いてみます。


原作は全7巻で完結済み。浅見理都が描く「問いかけの物語」

『クジャクのダンス、誰が見た?』は、『Kiss』(講談社)で2022年〜2025年にかけて連載された全30話構成のミステリー漫画。
作者は『サプリ』『透明なゆりかご』で知られる浅見理都。感情を丁寧にすくい取る作風で、今回もまた深い余韻を残す作品を届けてくれました。

舞台となるのは、かつて一家6人が惨殺された「東賀山事件」の舞台となった町。事件から22年後、被害者の娘・心麦(こむぎ)は、殺害された父の遺言をきっかけに、父が執念を燃やしていた冤罪事件の再調査に乗り出します。


「伏線の張り方が鬼」──原作ファンを唸らせる構成美

この作品の最大の魅力は、緻密すぎる構成力にあります。

物語は“冤罪”を描くだけではありません。父の死、22年前の大量殺人事件、刑事と弁護士の葛藤、加害者家族の罪。
各話の端々に散りばめられた台詞やしぐさが、読了後に伏線としてピタリとはまり、「あの一言はそういう意味だったのか…」と何度でも読み返したくなる。

そして何より、キャラクターが“ただの善人”でも“明確な悪”でもないというところに、この作品のリアルがあります。
読み手がそれぞれの立場に立ってしまうからこそ、胸が痛む。
それでも“誰かを赦さなければ前に進めない”という、切実な物語として成立しているところに、浅見理都先生の手腕を感じます。


ドラマ版の緊張感。広瀬すずが見せた静かな狂気

2025年1月から3月にかけてTBS系列で放送されたドラマ版は、主演・広瀬すずの存在感と、静かな演出が光る10話構成。

原作の雰囲気を壊すことなく、事件の重さや静けさを保ったまま描写されており、「これぞ実写化の成功例」とも言える仕上がりに。
特に印象的なのは、広瀬すず演じる心麦の“決意の顔”。
涙でも激情でもなく、「何も言わない」「ただ立っている」その1シーンに、原作を読み返したくなるような余韻が宿っています。

また、磯村勇斗・松山ケンイチら実力派俳優の静と動のバランスが、漫画では読み取りにくかったキャラクターの“体温”を感じさせてくれます。


原作→ドラマでも、ドラマ→原作でも味わえる「二度刺さる」仕掛け

この作品は、どちらから入っても“二度刺さる”ようにできています。

ドラマから入った人は、原作の内面描写の深さに衝撃を受けるでしょう。原作から入った人は、ドラマでの表情・演出・間の活かし方に心を打たれます。

物語の中で繰り返されるのは「何が正しいのか」という問い。その答えは読者/視聴者の数だけあり、結末もまた、一つの“真実”を突きつけて終わります。


今こそ読むべき。“復讐”と“赦し”をめぐる優しい問いかけ

『クジャクのダンス、誰が見た?』は、ある意味で“赦し”の物語です。

誰を許すのか。何を許せないのか。正義とは、贖罪とは何か。──そうした答えのない問いを、誰の声も荒げることなく静かに読者に渡していく。

ドラマの余韻がまだ残っている今、ぜひ原作漫画を手に取ってみてください。あなたの中にある「正しさ」と静かに向き合う時間が、きっと訪れるはずです。


浅見理都、『クジャクのダンス、誰が見た?』、講談社、KC Kiss

金曜ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』 – TBSテレビ

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まよまよ

新潟出身の漫画中毒めがね。コアでニッチな漫画が割と好き。猫と暮らす。

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