『チ。-地球の運動について-』世界の心を揺さぶる理由
『チ。-地球の運動について-』は、15世紀のヨーロッパを舞台に、禁じられた地動説を命がけで研究する人間たちの生き様と信念を描いた作品です。

この物語を読んだ誰もが、ページをめくるたび、胸の奥をざわつかせられます。単なる「地動説の物語」ではなく、命をかけて真理を追い求める者たちの息遣い、たとえ報われなくても、魂が連鎖するように託されていく“知”の火種が、静かに、しかし確実に読む者の心を焦がしていきます。

本記事では、作品の魅力を深掘りしながら、海外でも高く評価されている作品の魅力の深掘りと、海外からの声をお届けします。
作品の4つの魅力を深掘り
①「真実を知りたい」という普遍の渇き
物語は、宗教裁判が人々の思想と言葉を縛りつける時代を舞台にしています。物語は天文に興味を持つ少年ラファウが地動説を証明しようとし拘束されていたフベルトの身元を引き取るところから始まります。星を仰ぎ、空の彼方に真理を夢見るラファウ。真実を知りたいというただそれだけの理由で、時に命を投げ出してまで権力に立ち向かう。その姿は、国も時代も超えて、どんな読者の胸にも深い共鳴を呼びます。「知りたい」という飽くなき渇きは、人間の根源的な本能であることを感じさせてくれます。

②「知は権力に抗う」という痛切な現実
『チ。-地球の運動について-』には、知識を恐れる権力者の姿が描かれます。信じたことを口にすれば弾圧され、処刑される。真実を知ることが死に直結する世界。それでもなお、星を見上げ、地球の動きを信じてやまない者たちが描かれます。これは、ガリレオやコペルニクスが生きた現実と重なります。歴史の闇の中で、真理のために血を流してきた名もなき人々の物語が、まるで今、目の前で繰り広げられているかのようだ。その痛切さに、海外の読者の胸をも突かれずにはいられなようです。
③ 人間ドラマのリレー
この物語の特異な点は、主人公が次々とバトンを渡すように変わっていくところ。読んでいて思わず「え゛っっ」と声を出してしまいます。しかし、一人が倒れても、その想いを次の者が継ぐ。まるで命の灯火を繋ぐリレーのように、信念は途絶えることなく続いていく。そこには血の滲むような葛藤があり、時に裏切りや絶望もある。それでも人は諦めきれずに星を見上げる。この群像劇的な構成が、読者に多様な視点を与え、誰か一人に寄り添い、共鳴する余地を生んでいきます。
④ 絵が語る“静かな熱”
作者の魚豊先生の絵は決して派手ではありません。けれど、抑えた線の中にある表情や眼差しが、台詞以上に雄弁に語りかけてきます。恐怖、希望、諦め、そして愛――一つひとつのコマからにじみ出る“静かな熱”が、心の奥深くにじわりと沁みてきます。海外の批評家たちはその繊細さを「漫画という枠を超えた芸術」と評しています。国や言語を超えて、人間の魂を描き切る力。それがこの作品の底知れぬ魅力だと言えます。
海外の評価は?
思考を刺激する作品として
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「thought‑provoking」(“思考を刺激する作品”)という声がレビューサイトで多く、教育的価値も高いと評価されています。
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また、スペイン語レビュアーは「la pasión por el conocimiento y la tensión de estar frente a la muerte」(“知識への情熱と死を目前にした緊張感”)が魅力的だと書いています 。
情熱的でリアルなキャラクター描写
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ラテンアメリカ圏では「信念を貫くキャラクター」に共感が強く、「情熱的なキャラが好評」との声が見られます。
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欧米のレビューでは、「緻密な描写と緊迫した展開が読者を引き込む」と絶賛されており、実在の歴史とリンクするリアリティが高評価です。
印象的なコメント引用
「知識への情熱と死の緊張感が魅力的だ」
(la pasión por el conocimiento y la tensión de estar frente a la muerte)
「思考を刺激する作品、教育的価値が高い」 (thought-provoking, high educational value)
「緻密な描写と緊迫した展開が読者を引き込む」
世界中の人々がこの作品を称賛するのは、「地球が太陽の周りを回っている」という知識そのものではなく、それを信じた名もなき者たちの“生き様”に胸を打たれるからなのでしょう。
知りたい、知りたい、知りたい――。その叫びが、時代を超えて私たちの心を揺さぶります。
そして、きっとこの物語を読み終えた誰もが、夜空を見上げて、星々の瞬きに何かを問いかけたくなるような作品です!
[1-3]魚豊、『チ。-地球の運動について-』、小学館、ビッグコミックス