なろう系漫画レビュー空間『29歳独身中堅冒険者の日常』

 
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概要

  • 奈良 一平 (著)
  • 原作がなろう ではない
  • 『漫画家が描いたオリジナル異世界モノ』パターン

2016年から現在も連載中の異世界もの。
なろう系でもないし、異世界転生もしませんが、題名はなろう系の波に乗っているのでレビュー対象です。

作者はこの作品の前にハートフル姉ものの『ネコあね。』を描いていました。

少しだけ男性向けのやさしいテイストの物語でした。
今作でも、ほっこり系の異世界ものに仕上がっています。

レビュー

扉絵とかが可愛い

奈良 一平(著), 29歳独身中堅冒険者の日常1 (講談社コミックス), 講談社, 2016, p3

独特の優しい絵柄が可愛らしいです。
ほっこり系の漫画、よつばととかの路線のやつですね。
魔法陣グルグルの味も感じます。
私は大好きです。

1巻からこのテイストの絵柄で始まりますので、絵の安定感も十分でございます。

 

ほどよく生々しい世界観

奈良 一平(著), 29歳独身中堅冒険者の日常1 (講談社コミックス), 講談社, 2016, 1話, p.47.

脳死して読めるなろう系にありがちなご都合主義も良いのですが、ある程度「リアルっぽい世界ですよ」ということをアピールしてくれると安心して読めます。
特に「優しい世界」系って、周りが荒んでいるからこそ、一部がより優しく見える的なこともあると思います。
気分を害さない程度に上手に現実的です。

 

しっかり人の気持ちを描く

奈良 一平(著), 29歳独身中堅冒険者の日常1 (講談社コミックス), 講談社, 2016, p78

可愛らしい絵柄の割に、子供の気持ちが結構描かれているのですが、本作の特徴だと思います。
よつばとやばらかもんと似た路線ではありますが、その2作品よりも小さい子の考えていることに重きを置かれていました。

小さい子があまりにおバカだと、私は読んでいてイライラするのですが、そのラインを見極めているのか、本作はそのようなことは無く楽しく読めました。
そこらへんの塩梅が上手な先生なのでしょう。強い。

 

よつばと、ばらかもんの筋を追う堅実な作品だが、もう少し人気になってもよかったのに

昨今のなろうっぽい作品群のくくりで見たときに、十分上質な作品です。
楽しく読めました。

ただ、そこまで人気なわけではない。

原因は、なろう系作品群の高刺激さと、飽和状態だと思います。

本作品は、優しい空気感や丁寧な進行など素敵な面は多くあるものの、俺つえーor巨乳エルフのお色気などのような単純な「脳汁が出る」場面は比較的少なめです。
かと言って、「もっと脳汁出るようにしろ」とは全く思わないので、読み手の問題でしょう。
読み手の脳みそが、単純な脳汁を求めているのです。
ハンバーガーと手作り料理的な問題だと思います。

作品群が飽和状態で、単純に目に止まらないというのも問題です。
「小説家になろうで1位!」だとか、「小説家になろう2022年アクセス数1位!」的なバッチがないとキツい市場になっているのではないでしょうか。知らないけど。
漫画家オリジナルのなろう系風味は質も高くとても良いと思うのですが、宣伝としてはキツい面もありますね。

 

漫画家オリジナルの異世界なろう風味っていいよね

いいよね。

ただ、すでに上で触れた通り、「小説家になろうアクセス数XX位」みたいな実績で売り込むことが難しい。
加えて、偏見ですが、なろう系風味を出す漫画家は大当たりを出していない人だと思います。
出版社側も、他に比べて力を入れて宣伝するということをしないでしょう。

なろう風味が飽和しきった後には、漫画家オリジナルのなろう系風味が人気になると私は思っています。
質が高いですから。
その日まで頑張って欲しいですね。

 

大山 悠二

31歳、独身。中学生の頃から主に現実逃避のために漫画を読んできた。詳しいジャンルは00年代の萌え系、異世界系など。

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